〔固有値・固有ベクトル〕
固有値分解を理解するには固有値、固有ベクトルとは何かについて知っている必要があります。
ですので、じっくりと定義の理解とイメージの獲得をしていきましょう。
◆定義◆
固有値・固有ベクトルの定義は以下の通り。
n次正方行列
Aに対し、スカラー
λと零ベクトルでない
n項ベクトル
u=0が、
Au=λu
を満たすとき
λを
Aの固有値といい、
uを
Aの固有値
λに関する固有ベクトルという。[^4]
-
スカラーλ
実数(整数と差が1の整数と整数の間の全て)
3,0,-12,4.82,-1/2,0.3333・・・,
π等々
-
n次正方行列A
行と列の要素の数が等しい行列
2次正方行列=(acbd),3次正方行列=adgbehcfi
- n項ベクトルu:成分をn個持つ縦ベクトル
2項ベクトル=(x1x2),3項ベクトル=x1x2x3
◆イメージ◆
0を原点とする座標表面上の位置ベクトルが
uになる点Uの座標を
(x1,x2)とします。この時、
uを上記のような縦ベクトルで表します。この
x1,x2をそれぞれ、ベクトル
uの
x成分、
y成分と言い、イメージしやすくするために成分表示するとこの様に表せます。
ベクトルが3項になれば
z成分が追加され、座標空間上に表せます。4項以上は図示できません。
ここまで見て理解した!という方は
◆固有値の求め方◆まで読み飛ばしていただいてどうぞ!さっぱりだという方は順を追ってイメージを掴んでいきましょう。
固有値と固有ベクトルの定義を見ても正直言ってることは分かったけどだから何なんだ?と思いませんでしたか?私はそうでした。
そんなあなたにはこの項で固有値と固有ベクトルのイメージを理解していただきたいと思います。そこで、幾何的な意味について説明してきます。
と、その前に固有値と固有ベクトルのイメージを理解するには前提として平面上の一次変換を理解している必要があるので、もし初耳だったり曖昧だという方は下記にある
◆一次変換◆をご覧頂いてから戻ってきてください。
それでは幾何的な意味ついて説明して参りましょう。
幾何的とは図形的と言ってもいいですが、その観点から固有値と固有ベクトルを捉えると、
「n次正方行列Aで一次変換しても方向が変わらないベクトルを固有ベクトル、固有ベクトルの大きさを一時変換後のベクトルに合わせるスカラーを固有値」 と言い表すことができます。
具体例を見れば一目瞭然なので順を追って説明していきます。
-
非固有ベクトルの場合
2次正方行列
A=(4316)と適当なベクトル
u=(21)を用意します。
ここで
uを
Aで一次変換を行うと、結果は
u=(912)となります。
イメージはこの通りです。
一時変換後のベクトルは変換前と方向が異なるので、ベクトル
(21)は行列
Aの固有ベクトルではありません。
-
固有ベクトルの場合
2次正方行列
A=(4316)とベクトル
u=(13)を用意します。
ここで
uを
Aで一次変換を行うと、結果は
u=(721)となります。
イメージはこの通りです。
一時変換後のベクトルは変換前と方向が同じであるので、ベクトル
(13) は行列
Aの固有ベクトルです。
-
固有ベクトルに対する固有値
ここで求めた固有ベクトル
(721) は、変換前のベクトル
(13) にスカラー
7を掛けたベクトルだとも見て取れます。このスカラー
7を固有ベクトルに対する固有値と言います。
ここまで読むと幾何的な固有値と固有ベクトルの意味がイメージできたのではないでしょうか。
今回の例では始めから固有ベクトルが分かっている状態でしたが、実際には行列
Aの情報のみから解を導き出す必要があります。固有値の求め方が分かればそれが可能になります。それでは次項に進みましょう。
◆固有値の求め方◆
▽固有方程式の定義▽
n次正方行列
Aに対し、文字
tについての多項式
FA(t)=∣tI−A∣
を
Aの固有多項式という。また、
tについての方程式
-
固有方程式
tに関する方程式のこと。tは固有値
λのことであり、固有方程式を解くことで固有値
λが求められる。
▽イメージ▽
∣tI−A∣は行列式
det(tI−A)と同義であるため、
tが
λであることと併せて
FA(λ)=det(λI−A)=0を解けば固有値が求められると書き換えられます。何故
FA(λ)=0を解けば固有値が求められるのかは、
Au=λuを変形させればわかります。変形の過程はこの通りです。
Au=λu(λ−A)u=0u=0よりdet(λI−A)=0
一行目の式の左項を右項に移項して
uで括ると二行目の式になります。二行目の式の
uが零ベクトルであってはいけないことが〔固有値・固有ベクトル〕の
◆定義◆に書かれているので、二行目の式が成り立つには
(λ−A)が零である必要があります。よって行列式
det(λ−A)=0が成り立つ
λを求めることになります。ここで、
λはスカラーなので行列式を解くにあたり単位行列
Iを掛けてあげることに気を付けます。
単位行列
Iは、対角成分に1を持っており、他の成分は全て0である行列のことです。実数に1をかけても値が変わらないように行列に単位行列をかけても行列の成分は変わりません。
※一行目の移項に関して、右項を左項に移行する場合は固有方程式が
det(A−λI)=0になります。どちらも内容は同じですが、参考書などによってどちらを使うか分かれるため要注意です。私は
det(A−λI)=0派なのでこれより下の文章では定義と見た目が異なることになりますがご了承ください。
▽固有方程式の求め方▽
ここまで説明が長くなりましたが、いよいよ計算方法の説明に入っていきます。
それでは具体例を使って計算していきましょう。
まずは先ほど〔固有値・固有ベクトル〕の
◆イメージ◆の
固有ベクトルの場合で用いた
二次正方行列
A=(4316)を用意します。
そして、固有方程式に代入して
λについて解きます。
det(A−λI)=(4316)−(λ00λ)=4−λ3−01−06−λ=0
サラスの公式を使い行列式を解くと
(4−λ)(6−λ)−(1−0)(3−0)=24−10λ+λ2−3=λ2−10λ+21=(λ−3)(λ−7)=0
となり、よって固有値は
λ=3,7 です。
この後、各固有値を使ってそれぞれの固有ベクトルを求めるため
λ1=3,λ2=7と置きます。
実際に計算してみると
λの解の数はほとんどの場合正方行列の次数と同じであることが分かります。
しかし、
λの解が重解になる場合には数が合わないことが有ります。その場合、重解である
λから重解の次数分の一次独立な固有ベクトルが得られれば、その行列
Aは固有値分解可能です。得られなければその行列
Aは固有値分解不可です。これは、
n×nの正方行列において
n本の一次独立な固有ベクトルが取れれば固有値分解が可能であるという性質に基づいています。この性質についての詳しい説明は非常に長くなるので本記事では取り扱いませんが、証明方法などが知りたければ「ヨビノリ」の線形代数シリーズ13講と14講を参考にしてください。
◆固有ベクトルの求め方◆
固有値が求められたら次に固有ベクトルを求めていきます。
固有ベクトルは
「n次正方行列Aで一次変換しても方向が変わらないベクトル」 でしたが、求めた各固有値からどのように導けばよいのでしょうか。この項ではその方法を説明していきます。
結論、固有ベクトルは
n次正方行列
Aの固有値
λi(i=1,2,...,n)に関する固有ベクトルを
uj=xj1⋮xji⋮xjn(j=1,2,...,n)
とおいて、同次連立一次方程式
(A−λiI)uj=0(i=1,2,...,n)(j=1,2,...,n)
の自明でない解を求めればよいです。
同次連立一次方程式と自明ではない解について分からない方は下記の
◆同次連立一次方程式◆をご覧頂いてから戻ってきてください。
それでは具体例を使って計算していきます。
引き続き〔固有値・固有ベクトル〕の
◆イメージ◆の
固有ベクトルの場合で用いた
A=(4316)について、前項で求めた固有値
λ1=3,λ2=7を使って固有ベクトルを求めます。
まず、
λ1=3の場合について計算します。
ここでは
uを一つ目の固有ベクトルとして
u1と表記し、
(A−λiI)u1=0とします。
ここで
λiに
3を代入すると
(A−λiI)u1={(4316)−(3003)}u1=(4−33−01−06−3)u1=(1313)u1=0
が求まり、
u1=(x11x12)
なので
(A−λiI)u1=(1313)(x11x12)=(x11+x123x11+3x12)=(00)
となります。行列を連立一次方程式に変換すると
x11+x12=0
3x11+3x12=0
と表せて、
x11と
x12について連立一次方程式を解くと固有ベクトルの成分が求められます。
解は自明ではない解であるため、任意定数
cを用いて
x11=cx12=−c
よって固有ベクトルは
u1=(x11x12)=(c−c)=c(1−1)(ただしc=0)
任意定数はスカラー(実数)としてベクトルの外に出しています。
では、次に
λ2=7の場合について計算します。
ここでは
uを二つ目のベクトルとして
u2で表記します。つまり、
(A−λI)u2=0とします。
ここで
λに
7を代入すると
(A−λI)u2={(4316)−(7007)}u2=(4−73−01−06−7)u2=(−331−1)u2=0
が求まり、
u2=(x21x22)
なので
(A−λI)u2=(−331−1)(x21x22)=(−3x21+x223x21−x22)=(00)
となります。行列を連立一次方程式に変換すると
−3x21+x22=0
3x21−x22=0
と表せて、
x11と
x12について連立一次方程式を解くと固有ベクトルの成分が求められます。
解は自明ではない解であるため、任意定数
cを用いて
x21=cx22=3c
よって固有ベクトルは
u2=(x21x22)=(c3c)=c(13)(ただしc=0)
任意定数はスカラー(実数)としてベクトルの外に出しています。
ここまでの固有値と固有ベクトルの計算の解をまとめると、
A=(4316)が持つ固有値
λiは
λ1=3,λ1=7 で、それぞれの固有ベクトル
ujは
u1=c(1−1),u2=c(13)
となります。
確認の計算をしてみると、
(4316)(1−1)=3(1−1)
Au=λu
(4316)(13)=7(13)
で正しく計算できていることが分かります。
固有値・固有ベクトルの計算は以上ですが、次数が三次以上になると同次連立一次方程式を解くのが難しくなってくるため、より確実な方法で解く方法を紹介します。
▽三次以上の連立一次方程式の求め方▽
-
係数行列(
(A−λiI)の部分)を行基本変形を使って階段行列に変換してから
ujを掛ける
以下の行基本変形で可能な3つの変形
1.ある行のc倍を他の行に加えること
2.2つの行を入れ替えること
3.ある行をc≠0倍すること
を使って先に係数行列を階段行列に変形します。階段行列がよくわからんという方は下記の
◆階段行列◆をご覧頂いてから戻ってきてください。
例えば、
−2−1−11−4−1152xyz=000
この同次連立一次方程式の固有ベクトルを求める場合、
−2−1−11−4−1152→100010−1−10
係数行列を行基本変形によって階段行列に変形して
x−z=0,y−z=0
u=xyz=ccc=c111(ただしc=0)
自明でない解を任意定数
cを用いてこのように求められます。この方法であれば、行基本変形で可能な変形さえ守れば堅実に答えが求まるので3次以上の正方行列を扱うことが有ればぜひ使ってみてください。
-
クラメルの公式を使う
クラメルの公式については、以下のリンクに飛んでどういったものか確認してください。
ただし、リンク先でも注意されている通りクラメルの公式の計算は煩雑で手計算で解くのはあまりお勧めできません。
今回は2次正方行列について例題を扱ってみましたが、3次、4次と次数が増えるごとに計算が非常に面倒になっていくので計算方法の理解が曖昧だとミスが起きてしまいます。ですので、ここまでの内容を完全に理解して上で様々な問題を解いて慣れておきましょう。次章からはいよいよ固有値分解について定義と解き方を説明していきます。