Ccmmutty logo
Commutty IT
0 pv6 min read

フリーランスエンジニアとして契約締結時に気をつけていること5選

https://cdn.magicode.io/media/notebox/e5ba129f-2b7a-45fb-bc80-908b7065d4ef.jpeg
1年くらい副業でフリーランスエンジニアをしています。 SIerでマネージャ / PMを経験していることもあり、契約周りは普通のエンジニアより強いと思うので、契約締結時に気をつけたほうが良いポイント5点を説明します。

この記事の目的

  • 今フリーランスエンジニアをしている人が、今後有利な条件で契約を結べるように助言すること
  • 契約周りが不安で、フリーランスに尻込みしている人の背中を押すこと

1. 契約形態

結論

契約形態は、自信がなければとりあえず「履行割合型の準委任契約」にしておくこと

解説

契約形態はざっくり3つに分かれる。
契約先の開発チームと一緒に仕事をするフリーランスエンジニアの場合は、「履行割合型の準委任契約」一択だ。 決められた納品物を作成する仕事ではなく、その開発チームにおいて走りながら自分が出せる最大のバリューを発揮する仕事だからだ。
もしこれを請負契約にしたら、以下のような「お互いにとって時間の無駄」が発生する。
  • 契約前に開発チームの中でどのタスクをやるか、何を作るかを決めることになる
  • ↑を決めるための要件定義期間を準委任で契約することになる
もし顧客企業が、フリーランスエンジニアとしてのオファーにも関わらず請負契約を要求してきた場合、契約に関するリテラシーが低いか、悪意があるかのどちらかである。
  • 「請負契約でオファーいただいてますが、時単価で支払いいただくこと・貴社チームに混ざって業務を行うこと等を加味すると、今回は履行割合型の準委任契約が適していますよ」
  • 「請負契約の場合、契約前に成果物の要件を全てご提示いただいてからのお見積ですが、そういう想定ではないですよね」
といったことを説明しても納得してもらえなければ、あなたが支援すべき顧客ではない。

2. 時単価の税込/税別

結論

時単価は税込か税抜か明確にすること

解説

履行割合型の準委任契約の場合、稼働時間に対する支払いとなるため、時単価を交渉することになる。 大抵面談後のオファーと一緒に提示されることになる。
このとき、時単価が税抜か税別かが曖昧な場合がある。
同じ時単価6000円でも、これがもし税込だとしたら、税抜の単価は5500円弱ということになる。 後々遺恨にもなりかねないため、曖昧な場合はお互いのために確認すること。

3. 成果物 / 契約不適合責任

結論

  • 成果物が存在しないこと(稼働報告のみであること)を確認すること
  • 契約不適合責任に関わる条文が適用されないことを確認すること

解説

前置き

請負契約の場合、支払いの対象はソフトウェア等の成果物(納品物)であり、納品と検収が発生する。
  • 受注者が成果物を納品する
  • 発注者が検収する(双方合意した仕様 / 約束に従っていることを確認する)
このとき、検収で仕様に従っていない箇所が発見された場合、受注者には修正対応を行う義務がある。
また、請負契約の場合、受注者には「契約不適合責任」があり、検収後に不具合が見つかったり、納期が遅延したりした場合、無償で対応しなければならなかったり、損害賠償請求される可能性がある。

本編

一方で、準委任契約の場合、検収は存在せず、成果物(納品物)も存在しない。
業務上も、フリーランスエンジニアとして顧客企業のチームに混ざって仕事をする際には、ソースコードや設計書はGitHub等にプッシュしているだろうし、その稼働時間に対して支払ってもらうだけなので、契約上の成果物(納品物)は必要ないはずである。
そのため、契約書に成果物(納品物)の指定などがある場合、それが履行割合型の準委任契約である今回の契約には適用されない条文であることを確認する。
同様に、準委任契約には契約不適合責任は存在せず、履行割合型の場合は、納期が遅れようが稼働時間に対して請求が有効であり、契約終了後に不具合が見つかっても修正の対応などは発生しない。
そのため、「検収後1年以内に問題が発見された場合」「納期に遅延した場合」のような条文がある場合、それが今回の契約には適用されない条文であることを確認する。

注意点1. 稼働報告書

成果物として、稼働報告書を提出する場合はよくある。
月など請求の単位ごとに、いつどれだけ稼働したかという報告書のことで、例えば1週目はTwitter APIの調査と検証で10時間稼働、2週目はタスクのインプリとテストで15時間稼働、などである。請求書等同様、特にフォーマットに決まりはない。

注意点2. 善管注意義務

履行割合型の準委任契約の場合、たしかに契約不適合責任は存在しない。
しかし、「善管注意義務」というものはある。
これは、ざっくり言えば受注者として一定の能力を持って真面目に仕事に当たる責任がある、とでも捉えてほしい。
  • 面談で説明した経験やスキルが実際はなく、全く成果が出せない
  • 16時間かかると思っていた作業が8時間で終わったので、残りの8時間は遊んでいた
  • 明らかに正しく動作するものを作る気がない
といった、「さすがにそれはないっしょ」レベルのことをしてしまうと、善管注意義務違反となる。
加えて、仮に善管注意義務違反にならないとしても、信用を失うようなことをすれば、すぐに契約が終了したり、悪評が広まることにもつながる。
履行割合型の準委任契約は、双方の善意と信頼に基づく契約とも言える。予定より工数がかかっても費用を支払ってもらえる分、予定より早く終われば追加の作業をしてあげるというコンセプトと考えてほしい。

4. 契約解除申し入れのタイミング

結論

双方の契約解除申し入れのタイミングを明確にすること

解説

履行割合型の準委任契約の場合、こちらのやりたいことが変わったり、顧客企業の事情でいつかは契約が終了する。
この申し入れを行うタイミングが決まっていないと、例えば9月末にいきなり契約解除を言い渡され、10月は仕事が決まっておらず収入がない、ということになりかねない。
契約書上で双方の契約解除申し入れのタイミングを確認し、もしなかったり、短すぎたり(契約終了の1週間前など)した場合は交渉し、場合によっては契約決裂も検討する。
経験上は、1ヶ月前が一般的である。9月末までに言い渡されたら10月末で契約解除のため、10月中は次の仕事を探すことができる。

5. 損害賠償の条件

結論

損害賠償額の上限を定めておくこと

解説

履行割合型の準委任契約の場合でも、意図せず顧客企業に損害を与え、損害賠償が発生することはありえる。 例えば、誤って顧客企業のソースコードを流出させてしまったり、本番環境に障害を発生させたり、貸与してもらったPCを破損したりした場合である。
大抵の契約書には損害賠償について記載があるが、このとき、損害賠償額が青天井になっていることがよくある。この場合、理論上は、毎月100万円しか売り上げていないのに、いきなり5000万円の損害賠償を要求されることもあり得る。
もちろん個人事業主の支払い能力を考慮すれば、裁判の結果、途方もない額の支払いになることはまずないだろう。しかし、損害賠償額が青天井であれば、顧客企業の悪質なコーポレート部門が変な気を起こさないとも限らない。実際に裁判になれば、少なくとも面倒な手続きに追われることになり、人生の時間の無駄である。
そのため、損害賠償額の上限について交渉しておくと安心できる。 このとき、「ただし、故意または重大な過失を除く」といった条文を提案される場合があるが、これは飲んでもよいと思う。 ※具体的な金額についてはここでは記載しない。収益等を踏まえて納得できる額を決めること。

Tips

最後に3点、Tipsを述べる。

1. どこまで要求するか

契約交渉は貸し借りのゲームでもあり、何をどこまで要求するかはさじ加減である。
例えば、「相手が変な気を起こさなければいいや」という念の為レベルの確認であれば、わざわざ契約書に書かせずとも、メールなどで言質を取ることで満足してもよい。
逆に、損害賠償額の上限がクリティカルだと考えるなら、契約書に明記させたほうがよい。

2. 借りを借りに見せない

上記の「借りを小さくする」ことの他に、交渉のコツをもう一つ紹介する。
それは、「借りを借りに見せない」である。
例えば、契約解除申し入れのタイミングについていえば、顧客企業側もこちらがいきなり引き継ぎもせずに離任したら困るはずである。
そのため、「申し訳ないが1ヶ月前に申し入れてもらえないか」とお願いするのではなく、「こちらもしっかり引き継ぎしてから離任させてほしいので、双方1ヶ月前でどうか」と提案することで、借り1ではなく、貸し1や貸し借り0にできる。
このように貸し借りをコントロールすることで、より多くの要求を通すことができる。

3. 仲がよい・信頼できる担当者なら大雑把でも良いのか

信頼できる担当者でも、契約はしっかりとしたほうがよい。
担当者が異動になったり、本編にも書いたように、担当者の上司やコーポレート部門が悪質で後から面倒な話になる、といったこともありえるからだ。
契約は担当者とではなく、顧客企業とするものであることを意識し、「親しき仲にも礼儀あり」の意識で、しっかりと健全な契約を結んだほうがよい。
一方で、担当者からメールなど残る形で言質を取ることには意味がある。後から手のひら返しを食らったときに「貴社の○○さんからメールでこういただいておりますが、貴社はビジネスパートナーに嘘をつく企業ということでしょうか?」とオブラートに包んで牽制することができるからである。

追伸

フリーランスで気をつけることにフォーカスしているため、厳密でない部分もあるかと思います。(例えば、履行割合型の準委任契約は、稼働時間の他に、物品や再委託等のコストも請求対象になる、など)
もし明らかな間違いや誤解を招く表現等がありましたら、ぜひご指摘ください。

Discussion

コメントにはログインが必要です。